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私が子どもの眼鏡を専門に扱う眼鏡屋さんを始めようと思ったきっかけは、率直に娘の存在でした。
うちの娘は先天性の目病気で片目の視力が育ちにくい状態でした。

家族ともども目が良くて、眼鏡や見えずらいということさえ経験がなく、娘の目のことで悩んだとき、眼科の先生をはじめ、眼鏡店の方、そしてたくさんの方々に支えていただきました。
何も分からなかった私に、目のことを教えてくださった先生。
娘にとって必要な眼鏡を一緒に考えてくださった眼鏡屋さん。
そして、娘の「見る」を支えてくださった方。
振り返ってみると、本当にたくさんの方のおかげで、娘はここまで成長することができたのだと思います。大袈裟な話かもしれませんが、目から読み取れる症状は様々な病気に関連することもあり、たまたま娘の場合珍しい症例だったため、1歳になるまで他の体の箇所に症状が出ないか心配した記憶が残っています。
こういった経験が、私の中にずっと残っていて、月日が経って子供が成長して、視力と身体が安定するにつれて、
「今度は自分が、同じように子どもの目で悩んでいるご家族の力になりたい」
と思うようになりました。
子供は嬉しいことに「勝手にどんどん育ってくれます」ですが、「きちんと支えてあげないと育てない」という場合もあります。おこがましい話かもしれませんが、こどもの治療や成長を通して、自分たちが支えてもらった分、今度は同じような境遇のご家族お役に立てればと考えています。
率直にお伝えすると、これが、私が子どもの眼鏡屋さんを始めた理由になります。
「この子には、どんなふうに見えているんだろう?」

娘のことをきっかけに、弱視治療を開始し、眼鏡と出会って、様々な経験をすることになったのですが。その過程で、子どもの目について知っていく中で、私が強く感じるようになったことがあります。
それは、
「この子にはどんな世界が見えているんだろう?」
ということでした。
特に子どもは、自分がどのように見えているのかを大人に伝えることがとても難しいものです。
お店に来られるご家族から、
- 「見えにくいなんて、今まで言ったことがありませんでした」
- 「普通に見えていると思っていました」
というお話を伺うことも少なくありません。
でも、子ども自身は、今見えている世界が「普通」だと思っているのかもしれません。
- 実は、少しぼやけた世界の中で生活しているかもしれない。
- 遠視が強く、ピントを合わせるために一生懸命頑張っているかもしれない。
- 見たいものにピントを合わせようとすることで、目が寄ってしまっているかもしれない。
- 乱視によって、ものの境目がにじんだり、かすんで見えているかもしれない。
子どもたちは、そんな見え方の中で、それを「普通」だと思いながら一生懸命生活していることがあります。
だから私は、子ども本人が伝えられない「見え方」を、私たち大人が理解してあげることが大切なのではないかと思っています。
処方箋の数字の向こう側にある「その子の見え方」

眼科さんからいただく処方箋や作成指示書には、お子さんの目の状態がさまざまな数値で記載されています。
一般の方には、その数字が何を意味しているのか、なかなかわかりにくいと思います。
でも、眼鏡を作る私たちにとって、その数値は、その子の見え方を考えるための大切な情報です。
私は、その数字をただ眼鏡の度数として見るのではなく、
「この子は、どんなふうに見えている可能性があるんだろう?」
と考えるようにしています。
そして、そのことをご家族にもできるだけ分かりやすくお伝えしたいと思っています。
それを知ることで、
「この子は、こんな見え方の中で毎日頑張っていたんだ」
と初めて気づくことがあるからです。
娘の見ていた世界を体験して
私自身、それを強く実感した忘れられない経験があります。
娘が眼鏡をつけてから数年後、私は眼鏡の専門学校で学んでいました、その時の恩師に、
「娘は、どんなふうに見えているんでしょうか?」
と尋ねたことがあります。
すると、娘の目の状態をもとに、どのくらいぼやけて見えているのかを、仮想的に体験させてくださいました。


そのとき、
「ああ、こんなにぼやけているんだ」
と驚きました。
それと同時に、
「こんな見え方で、よく頑張って生活しているんだな」
と、胸にぐっとくるものがありました。
その経験があったからこそ、娘にとって眼鏡がどれほど大切なものなのかを、改めて実感することができました。
もし、この経験をしていなかったら。
私はきっと、眼科の先生からいただいた処方箋を持って眼鏡店へ行き、
「かわいいね」「よく似合っているね」そんなふうに眼鏡を選んでいたのだと思います。
もちろん、子どもが気に入った眼鏡をかけることは、とても大切です。
でも、その前にある大切なこと。
それは、
「なぜこのメガネが必要なのか」
「眼鏡を掛けないとどうなるのか」
「この眼鏡をかけると、この子はどういう見え方(状態)になるのか」
ということでした。それに気づかせてくれてのは、学校の先生や、お世話になった眼鏡屋さんがたくさん教えてくださったからだと思います。逆にこの出会いがなかったら、このようなことを想いもしなかったと思います。
「おしゃれ」よりも、まず「治療」
娘が初めて眼鏡を作ったとき、大変お世話になった眼鏡屋さんの店長さんに、こんなことを言われました。
「娘さんの場合は、おしゃれよりも、まず一番は治療です。」
その言葉は、今でもよく覚えています。
私たち家族には、眼鏡を選ぶ経験がありませんでした。
そのため、最初はどうしても「流行」や「かわいい」という視点から眼鏡を選ぼうとしていました。
でも、そのとき店長さんは、本当の意味で娘のことを考えてくださったんだと今になってひしひしと感じます。
子どもの眼鏡を選ぶとき、
- 「丸い眼鏡が人気だから」
- 「大きめのフレームがかわいいから」
- 「細いフレームのほうが顔になじみそうだから」
そんなふうに、見た目から選びたくなるのは当然だと思います。
私も親として、同じ気持ちでした。
だからこそ、眼鏡屋さんには、そこで一度立ち止まって、
「このフレームは、本当にこの子のためになっているだろうか?」
と考える役割があると思っています。
おしゃれやかわいさを大切にしながらも、まずはその眼鏡が、その子の目にとって必要な役割をきちんと果たせるのか。
特に弱視など、治療のために眼鏡を使用するお子さんの場合は、そこを最優先に考えたいと思っています。
たくさんの眼鏡店を見てきたからこそ
自分で眼鏡店を始めるまでの間、私はたくさんの眼鏡店を訪れ、子どもの眼鏡を見てきました。
いろいろなお店で、さまざまなフレームを見て、子どもたちがどんな眼鏡を選び、どんなふうに眼鏡をかけているのか、またお店の方の接し方などを見てきました。
その中で、子どもの眼鏡は大人の眼鏡とは少し違うのだと、改めて感じるようになりました。
- 顔の大きさや形はもちろん、成長によって変化していくこと。
- 活発に動く子どもだからこそ、ずれにくさや丈夫さも大切なこと。
- そして、毎日使うものだからこそ、本人が気に入ってかけられることも大切です。
でも、それだけではありません。
その子の処方を最大限、持続的に叶えられること。
その子が必要としている見え方をきちんと支えられること。
そこまで考えて眼鏡を選ぶことが、子どもの眼鏡には必要なのだと思うようになりました。
そして、
「子どもの目を大切に考えながら、もっと子どものための眼鏡選びができるお店をつくりたい」
という思いが、少しずつ形になっていきました。
弱視の眼鏡は「見る力」を育てるための眼鏡
弱視の治療における眼鏡の役割は、その子の脳に適切な映像を届けることで、視力の成長を促していくというものです。
弱視治療では、視力1.0を目指して治療を行っていますが、「視力1.0」という数字は、私たち大人にとっては当たり前のように感じるかもしれません。
でも、視力が十分に出ていない状態から1.0まで成長するということは、その子の人生にとって、とても大きなことです。
そして、同じ「1.0」でも、すっと見える1.0と、一生懸命見てようやく見える1.0では、見え方には違いがあります。
だからこそ、その子の目が持っている可能性をできるだけ引き出すために、眼科さんの処方に基づいた適切な眼鏡を、精度高く作ることが大切だと考えています。
私の娘も、強い遠視と乱視と左右差があり、成長に紆余曲折はありましたが、ありがたいことに視力が1.2まで成長しました。
もちろん、視力の成長には一人ひとり違いがあります。
それでも、
「その子が持っている見る力を、できるだけ伸ばし支えるために、私たち眼鏡店ができることがある」
私はそう考えています。
「なぜ、この眼鏡なのか」を知ってもらいたい
私は、お店で眼鏡を作るとき、できるだけ時間をかけて、お子さんの目の中で何が起きているのかを説明するようにしています。
- 目に入った光がどこに届くのか。
- 処方された眼鏡をかけることで、どのようにピントが合うのか。
- なぜ、この眼鏡が必要なのか。
- そして、眼鏡がずれたり、歪んだりしたときに、なぜメンテナンスが大切なのか。
こうしたことを知っていただくと、ご家族の眼鏡に対する見方も変わってきます。
- 眼鏡がずれているな▶︎きちんとかけてあげる
- レンズが汚れているな▶︎拭いてあげる
- 少し曲がっている▶︎メンテナンスに行く
- つけ忘れてる▶︎必要なタイミングを声掛けしてあげる
そんなふうに、お子さんの眼鏡を日常的に気にかけてもらえるようになります。
最近の眼鏡はとても丈夫になり、多少の歪みがあっても、そのまま使えてしまうことがあります。
「少しずれているけれど、そのままかけている」
「本人がいつの間にか外していてそのまま」(装用は常時なのか適時なのかお子さんによって違います)
そんなご家庭も、決して少なくないと思います。
その理由は、
「正しい眼鏡の状態が、お子さんにとってどれだけ大切なのかを知らない」
ということがいちばんの原因です。
だから私は、眼鏡を作るだけではなく、
「なぜ、この眼鏡が必要なのか」
を知ってもらうことも、子どもの眼鏡屋さんの大切な仕事だと思っています。
子どもたちの代わりに「見え方」を伝えたい
私は、正確な眼鏡を作ることはもちろん大切だと思っています。
でも、それだけではありません。
子ども自身が言葉にできない「見え方」を、少しでもご家族に伝えること。
それによって、
「この子は今まで、こんなふうに見ていたんだ」
「こんなに頑張って見ていたんだ」
と、お子さんの見え方に寄り添ってもらうこと。
それも、子どもの眼鏡屋さんとして大切な役割だと思っています。
正直に言えば、とても時間がかかります。
一人ひとりの目の状態を理解し、処方箋を読み、お子さんの様子を伺い、その上でどんな眼鏡が必要なのかを考え、ご家族に説明する。
効率だけを考えれば、もっと短い時間で接客することもできるのかもしれません。
それでも私は、この時間を大切にしたいと思っています。
なぜなら、子どもたちは、自分の見え方を自分で伝えることが難しいからです。
だからこそ、私たち大人が知ってあげたい。
そして、少しでも良い見え方で、子どもから大人へ成長していってほしい。
娘がたくさんの方に支えてもらったように、今度は私が、同じように子どもの目で悩んでいるご家族の力になりたい。
それが、私が「めがねのわ」という子どもの眼鏡屋さんを始めた原点です。
眼鏡を「作る」だけではなく、
その子の「見える」を理解し、支え、見守る。
そんな眼鏡屋さんでありたいと思っています。